「何馴染んでんだよ。普通はもっと驚くもんだろ。嘘だとか、騙されているんだとか思わないのかい」
「うーん、なんというか、信じられないくらいびっくりしているんだけど」

 日野宮は言いながら、思わず苦笑いを浮かべた。

「実際、目の前を魚が泳いでいるのを見たら、他にそんなことが起こっても不思議じゃないかもなぁと思いまして。人間じゃないと言われても、いまいちピンとは来ないけれど」

 正直に打ち明けたら、何故かオウミが上品に笑った。男が仏頂面で姿勢を戻して、水の入ったグラスを手に取る。

「けっ、都合のいい頭をしたヤローだぜ」
「まぁ、落ち着いてください鴉丸《からすまる》さん。時々迷い込んでくる子供達と同じくらい、日野宮さんの心が綺麗な証拠でしょう」

 疑い深い嫌な人間の大人とは違いますから、とオウミが言う。

 鴉丸と呼ばれた男は、何も答えないまま無言で水を飲んだ。ふっと微笑みかけた彼が、日野宮へと目を向けて尋ねた。