「えぇと、あの、魚が宙を泳いでいたんですけど…………先程あなたは『人間の大人』と俺のことを言いましたよね……? 一体ここって何なんですか……?」
「ここは海中通りと言いまして、どこからでも入れる異空間になっています。子供達が迷い込んでくることは時々あるのですが、大人はあなたが初めてですね」

 男はそう言うと、ふふっと笑う。

 日野宮は、ますますわけが分からなくなったような表情をした。

「じゃあこの店、実際は存在しないとかそういう感じだったりするんですか?」
「この店は実在していますよ? ただ、人間が見つけられないだけです。本来なら人間以外の方しか来店しないものでして」
「はぁ。つまり人間の利用がない通りと、その店……?」
「その通りです。私だって人間ではありませんよ。人の姿をしていますが、精霊の一種です」

 日野宮は「なるほど……?」と疑問形で言って、首を傾げた。

「ああ、申し遅れました。私はこの海中通りの『責任者』で、店主を勤めさせて頂いているオウミと申します」
「あっ、俺は日野宮です」

 日野宮は、丁寧に挨拶されて慌てて会釈を返した。

 すると、隣の男が顔を顰めて「おいコラ」と言った。