料亭で見掛けるような格好だ。それでいて美男子だなぁと呆気に取られていると、店主らし気その男ににっこりと笑いかけられた。

「こちらへどうぞ、お客様」
「へ? ああ、どうも」

 促されて椅子に腰掛けると、先客がこちらを振り返った。真っ黒いしっかりとした短髪に、小麦色に焼けた肌をした男だった。

 その男は、つり上がった目で凶悪そうにジロリと睨み付けてきた。片頬とマントから覗く筋肉のついた腕からは、古傷らしきものが白く浮かび上がっていた。

 そのまま店主らしき男が、「どうぞ」と言っておしぼりを差し出してきた。隣から痛い視線を感じながら、日野宮は足元に鞄を置いてそれを受け取った。

 冷蔵庫から出して来たのだろうか。おしぼりは、ひんやりとして気持ちが良かった。思わずほっとして汗で汚れた両手を拭っていると、彼がカウンターに戻ってこう訊いてきた。

「落ち着いていらっしゃるようで、少し意外でした。ここへ来る途中、怖くはありませんでしたか?」

 そう尋ねられて、日野宮はそういえばと思い出した。