「今日は、色々とご馳走になりました。本当に美味しかったです――お代はどのくらいになりますか?」
「ふふふ、いいんですよ。今日は私の奢りということで。次いらっしゃる時には、通常料金を取りましょうかね」
「また来られるかも分からないのに……」

 恐らく、自分がここへ来られる事はもうないだろう。
 ここは、人間の大人が出入りする事はないという摩訶不思議な『海中通り』だ。たまに子供が迷い込むだけの場所であるという説明を思い返して、日野宮は小さく苦笑を浮かべてそう言った。

 オウミが答えないままにっこりと笑って、続いて「鴉丸さん」と隣へ声を掛けた。

「彼は『出入り口』が分からないと思うので、『通りの外』まで連れて行ってあげてください」
「おう、そのつもりだ」

 そう言いながら立ち上がると、鴉丸は日野宮を見た。

「さぁ、行くぜ」
「よろしくお願いします」

 立つとますます大男に見える鴉丸に促され、日野宮はオウミに再び会釈をしてから店を出た。