再び見下ろしてみたグラスには、桃色のとろりとした水が入っていた。少しグラスを傾けてみると、甘い香りが漂い、中の氷がカランと音を立てて移動する。隣の鴉丸のグラスにも、同じような色の水が半分入っているのが見えた。

 これまで飲んだことのある酒とは、かなり違っているような気がした。どう違うのかと問われれば難しいけれど、アルコールで酔っぱらう、という感覚がまるでないのは確かだ。

「こちらは時間の流れが遅いですから、そろそろ戻った方がいいかもしれません。人間世界では、そろそろ〇時前頃くらいでしょう」

 オウミにそう声を掛けられて、日野宮は「そうですね」と答えてグラスの中を空にした。最後は喉に流し込んでみたものの、やはりカッと熱くなる事もなくひんやりと喉を滑り下りていった。酔っている感じはない、でも気持ちはどこかすっきりとしていた。

 そのまま、グラスをカウンターテーブルに戻し、足元から鞄を拾い上げて立ち上がった。