奥の方からオウミが出てきて、空になった食器を見てにっこりと笑った。けれどこちらの様子を察してか、何も言わないまま食器をさげて一旦戻っていく。

 隣から、鴉丸が首を伸ばしてきた。

「美味かったか?」

 そう尋ねられて、日野宮は目を向けられないまま静かに頷いた。溢れかけた涙を拭ったら、彼が黙って水を差し出してきたので受け取って飲んだ。

「オウミ、美味かったそうだ」

 言葉が出ない日野宮の変わりに、鴉丸が奥へ声を投げた。すると出てきたオウミが、「それはよかった」と言って、カウンターのテーブルに氷だけが入ったグラスを置いた。

 日野宮は、それが何を意味するのか分からなくて首を傾げた。思わず目で追いかけてみると、オウミは鴉丸の前にも同じグラスを一つ置いていた。

「いいのかよ、俺まで」

 鴉丸が嬉しそうに言う。

「今夜は特別にサービスですよ」

 ふふっと上品に笑ったオウミが、そう答えた。

 二人のやり取りを不思議に思っていると、鴉丸が氷だけが入ったグラスを持ち、まるで水を飲むように口を付けてぐいっと傾けた。そして、「やっぱ美味いなぁ」と満足げに笑った。