日野宮幸司が帰路につけたのは、午後十時を回った頃だった。

 住宅街の細い夜道には、街頭の明かりだけが灯の人の姿はない。風も全くないため地面に残る真夏の熱で蒸し暑く、スーツの内側も癖のない黒髪の中だけでなく全身汗だくだった。

 六年前に田舎から上京し、大学を卒業したのち大手のIT企業に就職した。忙しい仕事の毎日を送り続けて早二年、残業で帰りが遅くなることにも慣れた。

 とはいえ大学時代から、海もない内陸地の暑さには慣れないでいる。思わず一度足を止めると、前が開けられたスーツを掴んで内側に風を送った。

「夜なのに、ちっとも空気が涼しくない……」

 中に着ているシャツと肌着が、水分を含んで張り付き心地悪い。会社は冷房が効いているので、外が余計に蒸し暑く感じるのだろう。

 頬を伝って落ちる汗を拭った時、ふと、違和感を覚えて数メートル先に目を向けた。夜道にぽつりぽつりと街灯はあるものの、それはやや細めの鉄柱に明るめのランプが下がっていた。

「…………こんな街灯あったっけ?」