同じ高校に進学し、同じクラスになった穂花とはもう関わらない。
そう決めていたはずなのに、気を抜けばさっきみたいに手を差し出してしまう。
この中で穂花の秘密を知ってる人間はそう多くはない。
人は会話をしている相手に対し、無意識に声の大きさやトーン、速さを合わせる。でも、生まれつき耳が遠いというハンデを抱えている穂花はそれが苦手だ。
こちらが話そうとすると、穂花は相手の話を聞き取れるように、補聴器の付いた側の耳を相手の口元に近付ける。
そしてコンマ数秒の間を置いてから、他の人よりもゆっくりと言葉を返す。間が生まれてしまうのは、きっと補聴器に処理時間があるからだろう。
だからリズムに慣れていない人が初めて穂花と話そうとすると、普段の三倍は疲れる。もちろん彼女も同じだろう。
それに、マイペースな性格も災いしてるのか、穂花はストレートに言葉を返すのではなく、時々突拍子も無いことを言い出すから、そのせいでますます会話が成り立たない。
それでも、もともと明るい穂花の周りにはいつも友達がいた。
けれど僕らが中学生になると、穂花に対する周りの態度は明らかに変わった。
他人とは違うことが受け入れられない人間は、やがて穂花を面倒な奴だと認識し直し始めた。おまけにそう思われてしまったら、そこからイメージを変えるのは一筋縄ではいかない。
次第に穂花は滅多に笑顔を見せなくなっていった。