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 中学三年の進路希望調査。

 僕はもはや高校に行く意味なんてないとすら思っていた。けれど母親がせめて高校くらいは卒業しなさいときつく言い聞かせてくるものだから、渋々進路希望調査書の第一希望に、家から近いという理由だけで夏木高校と殴り書いておいた。

 本当は第二希望まで書かなければいけなかったけれど、わざと空欄にして提出したら、案の定放課後担任の先生に呼び出されてしまった。夏木高校は中学のクラスメイトの大半が選ぶところだ。またあいつらと一緒に過ごさなければいけないのかと思うと、正直うんざりする。

 いつものようにだらだらオンラインゲーム上で敵を狩っていると、珍しく穂花の方から現実世界の話を切り出してきた。

 【ねえ。楓はどこの高校受けるの?】

 【夏木高校】

 【どうして?】

 【近いから。それ以外に理由なんて思い付かない】

 【ふーん……。じゃあさ、私と一緒に秋陽高校を受けようよ。私、あえてみんなが選ばないところに進もうと思ってるの】

 中学時代の同級生がいないところに進学すれば、今の息苦しい生活をリセットできる。逃げるような気がしたからあえて考えないようにしていたけれど、あらためて穂花にそう言われると良案だと思えてきた。

 【僕もそうしようかな】

 【じゃあ決まり!さすがに私と楓どちらかだけ受かるのは笑えないからしっかり勉強しないとね。よっしゃ!なんかやる気出てきた】

 人間は少しでも前向きな目標が見つかると、途端に周りの景色が変わるから不思議だ。

 あいつらと離れることができるというだけでは到底湧いてきない推進力。

 絶対に口にはしないが、穂花と一緒の進学先を目指すのが、この上ない動機なのかもしれない。

 翌日、早速僕は担任の先生に第一希望の変更を告げた。先生はどういう風の吹き回しだと驚いていたが、基本的に生徒が前向きに選んだことに対しては口を挟まないようで、あっさりと進路変更を許可してくれた。

 高校受験といっても油断は禁物だ。秋陽高校は夏木高校より偏差値が高いから、少しは勉強に力を入れなければいけない。先生はわざわざ放課後に視聴覚室を開放し、試験対策までして応援してくれた。

 穂花と学校で話すことをしなかったのは、必要以上に大きな声を出さなければいけなかったし、たまにズレたことを言うのが鬱陶しかったからだ。

 僕と穂花は相変わらず毎日のようにオンライン上で顔を合わせていた。

 けれど僕らはいつもより早くゲームを切り上げ、ボイスチャットを繋げたまま先生から出された課題をこなすこともルーティーンに組み込んだ。

 ゲームの合間に勉強をするのはどうかと思うが、僕らにとってはそれくらいの匙加減が丁度良かった。

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