頭上からかぶった水で一気に頭が冷えて、雪弥はうつ伏せの姿勢で、茫然と顔を上げた。同じように外に転がった男が、地面に尻をついた状態で苦痛に顔を歪めている。その手前には横倒しになった空の水槽があり、側面が少し割れてしまっているのが見えた。

 宵月を含む数人の悲鳴と騒ぎの音を聞いて、使用人達が蒼緋蔵邸の仕事場から次々に飛び出してきた。白い肌に明るい茶色の瞳をした金髪の少女が、「私の金魚ちゃん達が!」と、どこか英語訛りで叫ぶそばに、慌てて女性の使用人達が向かう。

 倒れこんだ男性のそばには、心配そうな表情を浮かべて「どうしましょう」とあたふたする中年女性の姿があった。男はスーツ、女は貴婦人のようなレース入りのスカート衣装だ。そちらへ、男性の使用人達が駆け寄って、素早く対応に取りかかり始めた。

 …………えっと、この三人は一体『どちら様』なのだろうか……?

 雪弥は、見覚えのない親子連れを、呆気に取られて見つめていた。どこからか「大丈夫ですか雪弥様ッ」と、慌てたような若い使用人の声が上がったが、それを宵月の「タオルはわたくしがやっておきます、下がりなさい」という低い指示が遮った。