大きな玄関扉が開かれるのが見えた瞬間、反射的にそちらへ突っ込むように地面を蹴っていた。けれどその直後、不意に開いた玄関から入って来たものが目に入った途端、爪が伸びかけた雪弥の手が不意に止まった。


 一人の男が、水槽を両手で抱えて大玄関をまたいでいる。その水槽の中には、数匹の小さな金魚が入っており、向こうの景色が水越しにぼやけて見えた。


 ああ、水だ。

 雪弥は、太陽の光が鈍く差し込む水槽を、ぼんやりと見つめていた。一気に理性が戻ったけれど、空中を突き進んでいるその身体は止まらななくて。

 水槽を抱えたまま、玄関口から数歩足を踏み入れたその男が、突然至近距離に現れた雪弥に気付いて、驚きの声を上げた。そのまま、突っ込んできた彼に押しやられるように、ぶつかった衝撃で水槽と共に扉の外へと投げ出される。

「雪弥様!」
「お父様!」
「あなた!」

 三つの悲鳴が上がった直後、ばしゃんッ、と盛大な水音が上がっていた。