リビングの開かれた大窓から風が入り込んで、癖のない前髪を揺らして形のいい額を覗かせた。それを肌でも感じながら、彼は蒼とも灰色ともつかない色合をした色素の薄い髪と、雪のように白い肌に不似合いに浮いている、真っ黒な瞳を動かした。

「はぁ。そもそも、ちゃんと正論な提案を返したのに、いきなり怒るとか訳が分からないし、出て行けっていう割りには出すなって言うし……一体、何がどうなっているんだか」

 雪弥は呟いて、溜息をこぼした。

「今のうちに問題を解決しておかないと、次の仕事の最中に、更に現状が悪化しそうで怖いんだよなぁ」
「わたくしは、真顔で口元にだけ笑みを浮かべる今のあなた様が――遠まわしで述べますと、気味が悪いです」
「だから、それ直球だよ、『気持ち悪い』と何もニュアンスが変わってないからな。昔から思っているんだけど、なんか僕に対しては、ちっとも執事らしくないな?」

 雪弥は、そこでようやく頭を起こして、ソファの後ろにいる宵月を振り返った。彼は特に表情を変える事もなくこちらを見下ろしていて、「そんな事はございません」と淡々と言葉を返してくる。