兄さんは、一体何を怒っているんだ? 僕は当然の事を言っただけじゃないか。

 雪弥は小さく溜息をこぼすと、ソファに腰かけている四人の人間をチラリと見やった。彼らがビクリと肩を震わせ、その緊迫した顔色が薄紅色に染まり始めたが、それが自分に対する怒りなのか、蒼慶への畏れなのか分からなかった。

 失礼のないようにと思ったんだけど、何か間違った言い方でもしてしまったのだろうか。雪弥はそう思いつつも、自分の発言が原因で、温度が五度下がっている蒼慶へと向き直る。
 現在起こっている問題に対して、分家である彼らも納得して、全て穏便に片づく方法を知っていた。だから冷静にこう説いた。

「相続といった権限がないのに、蒼緋蔵家の方々が納得してくれていない現状もありますから。もう色々と面倒なので、僕としては手っ取り早く『この名』を、蒼緋蔵家にお返ししたいと思いっています――いかがでしょうか?」
 
 そう提案を返してみた。