「前もって知らせていたはずですけど。父さん、いないんですか?」
「はい。本日のご予定が急きょ詰まったようでして、今のところ、今晩まではお帰りになれないスケジュールかと。その間の訪問者は、すべて蒼慶様が引き受けております」

 淡々と告げた宵月に、亜希子が呆れたように息をつく。

「『引き受けております』と言っても、皆はじめから、あの子を目的にやって来ているじゃないの。少しは、休みも必要だと思うのだけれど」

 亜希子は不満そうにぼやいて、真っ赤な唇をへの字に曲げた。それだけでは足りないというように雪弥を見やると、続けて不満を口にする。

「蒼慶ったら、昔から一緒に遊びにも行ってくれないし、買い物にも付き合わないから、母親としてはつまらないのよね。緋菜と一緒に映画に誘ったら、わざわざその時間に人と会う約束を入れたのよ? 信じられる?」
「えぇと、その、まぁ兄さんの事ですからね。あの性格からすると、買い物とか映画館は、ちょっと難しい気もするというか……」