雪弥は、テーブルに残された大皿のホールケーキを一人で食べ進めながら、なんとも言えずに彼女を見送った。出ていくのを見届けたところで、ようやくポツリと口にする。

「なんだか、すごく清々しいというか……」

 ケーキの山を食べ進めている彼の隣で、蒼慶が呆れつつも「いつもは、もっと手間がかかる」と答えながら、ジロリと見やって愚痴る。

「貴様こそ、一体どんな胃袋をしている?」
「へ? 何が?」

 必要のなくなった食器が片付けられた食卓には、今や三人しか座っていなかった。大皿のケーキを雪弥が食べている以外は、向かいの席に桃宮勝昭を残すだけとなっている。

 桃宮は部屋に戻るわけでもなく、もう一度読み返すようにして新聞を広げていた。戻って来た際、新しく淹れ直された珈琲からは、まだ湯気が立ち昇っており、カップに口を付ける時、かけられた老眼鏡が少し曇った。

 彼は新聞を読んでいるというよりは、記事をただ眺めているようにも見えた。一人で何かをじっと考えている様子にも思えて、雪弥は兄の突っ込みに疑問を抱かないまま、ケーキをゆっくりと口に運びながらじっと窺ってしまう。