自分が蒼緋蔵邸で昼食をしているというのも、改めて考えてみれば、ここへ来るまで全く想定していなかった事だった。こうして皆で、同じテーブルについている光景が、なんだか見慣れない。

 ここに来てから、ずっと変な感じだ。

 視線を戻した雪弥は、二つの家族の賑やかな会話を耳にしながら、口下手でお喋りに参加するのも出来ず食事に専念し、そうやって時間が過ぎるのを待った。

             ※※※

 ああ、身体が鈍りそうだ。

 昼食が終わった午後二時過ぎ。亜希子は庭園を案内するといって、緋菜とアリスと紗江子を連れて食後の散歩に向かい、桃宮勝昭が「事業の話を聞きたい」と蒼慶を誘っていき、雪弥は一人で蒼緋蔵邸に残っていた。

 はじめは、全員が外へ出た後にでも、一人で蒼緋蔵邸内を回ってみるつもりでいたのだが、蒼慶に「間取りも全て把握していない奴が、ちょろちょろ動くんじゃない」と一喝された。雪弥なりに意見はしたのだが、結果的に「勝手に動くな」と、二階にある大部屋に閉じ込められてしまったのだ。


 この大部屋まで案内したのは、今は蒼慶のそばに戻っている宵月である。監視人無し、つまり一人にさせてくれるのならそれでいいかと――そう思っていたのは、入室直前までの事である。

 入室直後、外から扉の鍵が閉められる音を耳にして、言葉を失った。なんの為に鍵をかけた、と思ったし、事前説明もなかった兄からの指示には唖然としたし、思うところが多々ありすぎた結果、悠々と自分を閉じ込めた張本人に殺意を覚えた。

 宵月、あとで殺す。


 ここは蒼慶の書斎室近くにある大部屋だった。だだっ広い室内には、黒塗りの美しいグランドピアノが置かれており、様々な楽器が展示されているガラスケースの棚もあった。

 弧を描く大きなテラスには、丸いテーブルセットが一組。四方の壁は本棚で囲まれていて、当主や蒼慶の趣味を表すような難しい本ばかりが揃えられている。