思い返せば、乗馬の経験はなかった。戦車や軍用ヘリコプター、ステルス、組織の改造車や大型バイクくらいなものだ。どれも大量の武器が積め込まれたタイプの物で、攻撃するためにしか乗った事がない。

「……う~ん、馬にマシンガンとかバズーカ砲を乗せてもなぁ」
「可愛らしい顔で、恐ろしい事をおっしゃらないでくださいませ」

 雪弥は、そうすれば機会があるかもしれない、と本気で口にしていたのだが、宵月は「冗談はここまでにして、まいりましょう」と言って、道を案内した。

             ※※※

 蒼緋蔵家の本館裏から降りると、東には別館や一族の人間が集う和風の平屋敷、北にいくつかの庭園を構えて、西側に向かうと広大な芝生地帯が広がっている。

 本館に一番近い庭園へと向かい、北方向に進み出してしばらくもしないうちに、立派な馬小屋が見えてきた。その前に数人の男性使用人達が集まっているのを見て、その穏やかではない雰囲気に雪弥は眉を寄せた。