『かなり範囲を広げてきたな。稼ぎたい連中も多いし、いろんな土地から人間が集まっていて、外聞や評判を気にするくらい競争率も高い。わざわざ自分から評判を落とそうとする商人は少数派だと思うぜ?』
「そうだけといいけどなぁ……」
『実際に入ってみないと分からないって顔だな。まぁ騎士団や伯爵家みてぇ人間がいる店が、近くにあればいいと思っているが――』

 そう言いながら、ノエルはつい、人混みに目を向けてしまった。

『――……オレとしては、そうじゃなかったらあの長男坊が殺しにかかるんじゃねぇかと、別の意味で心配でならねぇんだが』

 ノエルは、伯爵邸を出てからずっと、付かず離れで付いてくる私服の二人の男達に目を留めた。王宮内を歩いていた時、何食わぬ様子でラビの顔を確認するように、通り過ぎて行った二人の騎士と同じ匂いだ。

 ラビは試しに入ってみる店について真剣に考え、周囲の建物に忙しく目を向けていたので、ノエルの呟きを聞き逃してしまった。遅れて「何か言った?」と尋ねた彼女に、彼が『いや、なんでもねぇよ』と吐息交じりに返した。