遺跡のある森は、見上げると首が痛くなるような背の高い巨木群が広がっていた。生い茂った木々には、蔦科の植物が絡みつき、太いものであると、まるで蛇がぶらさがっているかのようにも見えた。

 早朝にアビードの街を出発した馬車は、午後の早い時間に目的地の森に到着していた。入ってすぐの場所は、あまり木々が入り組んでいなかったので、そこに馬車が停められた。

 下車したラビは、持ってきた剣を腰に備えた。何かあった場合に馬だけでも逃げられるよう手綱を調整し、各々の剣と武器を確認するセドリック達を後ろに、高い木々を見上げてぐるりと見渡す。

『生物の気配がしねぇな』

 馬車の上から隣へと降り立ったノエルが、そう言って漆黒の優雅な毛並みを持った尻尾を一回振った。ラビもそれは感じていたので、「そうだね」と相槌を打った。

 深い森は、木々から木漏れ日が降り注いで明るいにもかかわらず、どこか閑散として物寂しさに満ちていた。ホノワ村にある森にはなかった、風の通り抜ける音の他はないという状況には違和感を覚える。