「こっちは全然人がいないんだな」
『規制がされているくらいだからな、それなりの厳重区域なんだろ。とはいえ、ここまで人払いがされるってのも珍しいがな』

 隣を歩くノエルも、鼻先を動かせながら辺りを見渡した。ここにいるのは、彼の存在を知っている人間だけなので、ラビは気がねなく目を向けて「ふうん、そうなんだ?」といつものように相槌を返した。

『軍だろうが貴族だろうが、組織ってのはだいたい同じようなもんだ』
「つまりノエルは、全く人が出歩いていないのが気になるの?」
『普通なら、許可を与えられている階級の人間くらいは出歩いてる。それほど大事な話がしたいのかと勘繰っちまうし、兄の方は、弟よりも頭が回るからな。俺としては、ちょっと思うところもある』

 ノエルは言葉をぼかして、はぐらかすように尻尾を揺らした。

 一見するとラビ一人だけが話しているような光景を、しばし見守っていたセドリックが「ラビ」と呼んだ。