ラビは、後方にユリシスを残して、塀に腕をもたれて氷山を眺めやった。隣に立ったノエルが、塀に前足を掛けて頭を上げ、優雅な漆黒の毛をなびかせながら鼻先を動かせた。

『あの山は、氷狼の巣だな。でも、なんだろうな。山から嫌な匂いがしやがる』

 ラビは後ろにいる人間に怪しまれないよう、囁き程度の声で「嫌な匂いって?」とノエルに尋ねた。

『昔嗅いだ事があるんだが――いや、まさかな。あいつらはただの亡霊だ……使い手もいなくなっちまったし、こんなところに【月の石】がある訳でもないだろう』

 使い手? 月の石ってなんだろう。

 しかし、ラビの疑問は口にはされなかった。ノエルがさっと身をひるがえすと、そこにユリシスがやってきて彼女の隣から氷山の方を眺めたのだ。

「随分熱心に見ていますね。人間よりも、風景の方が落ち着きますか」
「……なんか、ヤな言い方だなぁ」

 ラビが塀にもたれると、彼もこちらを見ないまま腕を組んだ。