「遠くを旅したい。父さんも母さんもいなくなった村を出て、オレを誰も知らないところへ、ノエルと――」

 その時、静かな表情のテトの指先が、ラビの頬に触れる直前、横から素早く伸びた手がそれを止めた。

 ラビは、驚いて我に返った。すぐそこにユリシスがいて、彼は二人の間に割って入るように手を突き出し、表情なくテトの腕を掴んでいた。

「――テト。聞き出すように頼んではいましたが、やり過ぎです。おかげで副団長を抑えられなくなりました」

 直後、セドリックがユリシスを荒々しく退けた。彼はテトに詰め寄ると、「あなたは何でラビの髪に触ったんですかッ」と胸倉を掴み上げた。

 テトは、何故セドリックが怒っているのか分からず、その剣幕に慌てて「珍しくて」「つい」と説明した。

 ラビは、ただ髪を触られただけなのだが、と首を捻った。一体、この幼馴染は何を心配しているのだろうか?

 その時、外から戻って来たノエルが、『騒がしいなぁ』と鼻頭に皺を作った。彼はラビへと歩み寄ると、お帰り、と目で伝えてくる彼女に『おぅ』と答え、尻尾を大きく振った。

『だいたい絞り込めたぜ。今日は疲れちまったから、とりあえず明日動こう』

 明日動く、と聞いたラビの脳裏に、初めて訪れた町をノエルと歩く光景が思い浮かんだ。

 調査の一環だとしても、彼と二人ならとても楽しいに決まってる。

 目の前の騒ぎに対する疑問も忘れて、ラビは期待感のまま立ち上がった。今のうちにその予定を確保してしまいたくて、テトを掴み上げるセドリックのジャケットの裾を掴み、忙しなく引っ張った。

「セドッ、セドってば! ちょっと聞いて欲しい話があるんだけど」
「な、なんですか、ラビ……?」

 昔の愛称で呼ばれ、セドリックは目を丸くしてそう訊き返した。目の前で揺れる金色の髪に先程の光景を思い出し、悔しくなって僅かに目を細める。

 ラビはそれに気付かず、彼の袖を上下に揺らしながらこう言った。