その時、男が顔を離して通りの向こうを見やり「あらららら」と困った様子もなく笑った。エルを引きとめていた手を離し、素早く距離を取る。


「残念ですねぇ、見つかってしまいました」


 通りの向こうから一つの怒声が上がった。

 仮面の男は、人の波の間から怒声を発したログに向かって微笑を返すと、エルに視線を戻して「ばいばい」と言い残し、マントを翻してメイン通りを下りていった。その際、彼は一度だけエルを振り返り、唇の前に人差し指を当てた。

 奇妙な黒い仮想男の姿は、あっという間に人混みに紛れて見えなくなってしまった。

 しばしエルが呆けていると、遠くから「おい、クソガキッ」と乱暴な声がした。反射的に声のする方向へ顔を向けると、遊園地には場違いな空気を放つ大きな男の姿があり、それは仏頂面を下げたログで、彼は人の波を押しのけてこちらに向かって来た。

 ログはエルの正面まで辿り着くと、仮面の男が消えた方向を数秒睨みつけた。それは、ひどく苛立っているような顔だった。