男が大きな身体を伸ばして、飛び出して来たエルをしげしげと覗きこんで来た。
エルは、思わず緊張で身体が強張った。かなり長身の男だ。黒いマントを着た身体が目の前に立ち塞がり、通りの向こうの様子が全く見えないほどだった。

 その時、男の身体をすっぽりと覆っている真っ黒いマントの下から、白い手袋をした大きな手が伸びて来た。


「迷子ですか?」


 男が柔和な声でそう問い掛けて来た。

 通りには、魔女や絵本のキャラクターに扮した仮装者もたくさん紛れており、ここにファントムらしき仮装人がいたとしても、このテーマパークでは作品を忠実に再現した素晴らしい役者の一人に過ぎない。

 しかし、エルは、唐突に現れたこの登場人物に警戒を覚えた。

 歩いている他の仮想人や通行人とは違い、この男が、独特の意思を持って動いているような気がしたのだ。まるで、大きな闇が目の前を立ち塞いでいるような威圧感もあった。

「……えっと、大丈夫です」

 強がってみたものの、エルは思わず後ずさりしていた。

 仮面の男は、こちらに伸ばしていた手をピタリと止めると、わずかに小首を傾げて見せた。