オジサンと一緒に住み始めて、間もない頃、身体の傷が癒えたばかりで、エルはその後遺症なのかとても怖い夢を見て飛び起きる事が多かった。悪夢が追ってくると錯覚し、パニック状態になったエルが外に飛び出すたび、オジサンは、サンダルもはかずに縁側に飛び出した。逃げ惑う小さなエルを抱きとめて、怖い事は何もないよと、彼は何度も優しく励ましてくれていた。

 エルは、当時見ていた悪夢の内容を覚えていない。ただ、とても怖い夢だったような気はする。得体のしれない何かに掴まり、永遠に誰にも会えなくなってしまうような、そんな悪夢だった。

 エルは、あの三人を探す目的を忘れて、逃げるように途中の筋道に入った。

 もしかしたら本当に敵に追われている可能性があると、頭の片隅にもぞりと現状の知識が戻って憶測をかき立てる。自身で受ける危険は出来るだけ回避していた方がいいだろうと、そんな言い訳じみた思考が脳裏を過ぎって、エルは走った。


 別に、一人が恐いわけじゃない。心細くなんてない。俺にはまだクロエがいて、この身体にはオジサンが残してくれた、一人でも生きていける術や思い出が沢山詰まっているのだから。


 筋道には、小振りのお土産ショップが並んでいた。道は歪なカーブを描いて上のメイン通りまで繋がっているようで、子どもサイズの『オモチャの家』のような煙突付きの同じ青い建物が、人が二人ほど通れる隙間を背に並んでいた。

 建物と建物の間にも、同じ間隔の抜け道があった。こちらに向かって下って来た若いカップルが、そのまま近くの抜け道から表通りへと出ていった。

 来た道の向こうが見えなくなってしまうと、恐怖感が遠のいたように落ち着きが戻って来て、エルは走るのを止めて足早に歩いた。

 メイン通りに抜ける手前にベンチをみつけ、一旦そこに腰を落ち着けた。走ってしまった事を考えてチラリとボストンバックの中を見やると、クロエは眠ったままだった。