ここには子供向けの小ぶりな造りの建物が多いので、あの三人は、場違いな存在感を放っているから目立つだろう。

 人の通りがあまりにも多いため、クロエはボストンバッグに身を潜めてしまっていた。そろそろ仮眠を取る時間の可能性もある。クロエが寝ている時は少しだけ心細いのだが、エルは、意気込んで傾斜の上を目指して歩いた。

 坂道は、しだいに傾斜を増していった。エルは、場違いな三人の外国人の姿がないか、当たりに目を走らせながら歩いた、

 その時、ふと、エルは名前を呼ばれたような気がして振り返った。人混みの中に見知った顔はなく、か細い声が聞こえるほど辺りは静かでもない事実を冷静に考えたエルは、不意に恐怖を覚えた。


 呼び掛けられた名前は、エルの育て親であるオジサンしか知らない、エルが永遠に失ってしまった本当の名前だった。


 気のせいだ。そんな事は在り得ない。

 そう自分に言い聞かせて、エルは先を急いだ。この世界に入る前から、ずっと誰かが自分を呼んでいるような気がしてならない。いや、ちょっとナーバスになっているだけだろう。旅を始めてから結構な月日が経ってしまっているから、疲れているのかもしれない。

 エルが別れを告げて旅立った場所も、最後に挨拶を済ませた育て親の墓からも、ずいぶんと遠くまで来てしまった。

 今帰仁に佇んでいたオジサンの家は、もう取り壊されてしまっただろうかと、そんな事を考えてしまった。

 急速に心細さを覚えた。恐怖が背後に迫るような錯覚に、急く足が次第に駆け足になった。上り坂で体力が奪われて呼吸が自然と荒くなる。いなくなってしまった人を求めて、一人泣きながら探し続けた夜を彷彿とさせた。