近くを通っていた兎の着グルミが、男の子に風船を渡して気をそらせ始めた。アイスクリーム屋の店主が、あっという間に新しいアイスをのせて母親に渡してやる。男の子はアイスクリームが元に戻った事を喜び、彼らは一同に笑顔を浮かべた。男の子も涙を拭って、優しい店主に「ありがとう」と微笑みかけた。
途端に、エルがこの世界に抱いた現実感は薄らいでしまった。
エルは、まるで子共が思い描いたような幸せな世界に息苦しさを感じた。こんな事が現実に溢れている訳がないのに、この世界ではそれこそが正しく、正常とばかりに誰もが行動しているのだ。
ああ、なんて残酷なんだろう。これはただの、夢物語でしかないのだ。
親を失って泣き叫ぶ子共も、人混みに苛立つ大人も、休憩所を探して重い足を引きずる人間も、この幸せランドにはいない。
失った物は決して取り戻せないし、泣き叫んでも助けが来ない事をエルは知っているからこそ、この世界が偽物なのだと強烈に痛感した。泣いて求めても、それはこの手に戻って来てはくれないのだと知った時から、エルは求める事を止めたのだ。
それでも幸せな親子と、彼らを包み込む暖かな大人たちの姿から、何故か目を離す事が出来なかった。腹の底がきゅうっと締まるような、懐かしさと苦しさを覚えた。
母子の姿を目で追っていたのは、ほんの十数秒の事だったが、擦れ違う人と肩がぶつかって初めて、エルはスウェンたちの姿が見えない事に気付いた。咄嗟に辺りに目を走らせたが、背丈の低いエルでは、人混みの向こうまで確認する事が出来なかった。
遊園地を楽しんでいるのは、どれも平均的な日本人ばかりのようなので、少し先まで探せば、頭一個分飛び出た男たちを見つける事は容易に違いない。だから焦りは覚えず、エルは、どうやらはぐれてしまったようだと冷静に思う事が出来た。
途端に、エルがこの世界に抱いた現実感は薄らいでしまった。
エルは、まるで子共が思い描いたような幸せな世界に息苦しさを感じた。こんな事が現実に溢れている訳がないのに、この世界ではそれこそが正しく、正常とばかりに誰もが行動しているのだ。
ああ、なんて残酷なんだろう。これはただの、夢物語でしかないのだ。
親を失って泣き叫ぶ子共も、人混みに苛立つ大人も、休憩所を探して重い足を引きずる人間も、この幸せランドにはいない。
失った物は決して取り戻せないし、泣き叫んでも助けが来ない事をエルは知っているからこそ、この世界が偽物なのだと強烈に痛感した。泣いて求めても、それはこの手に戻って来てはくれないのだと知った時から、エルは求める事を止めたのだ。
それでも幸せな親子と、彼らを包み込む暖かな大人たちの姿から、何故か目を離す事が出来なかった。腹の底がきゅうっと締まるような、懐かしさと苦しさを覚えた。
母子の姿を目で追っていたのは、ほんの十数秒の事だったが、擦れ違う人と肩がぶつかって初めて、エルはスウェンたちの姿が見えない事に気付いた。咄嗟に辺りに目を走らせたが、背丈の低いエルでは、人混みの向こうまで確認する事が出来なかった。
遊園地を楽しんでいるのは、どれも平均的な日本人ばかりのようなので、少し先まで探せば、頭一個分飛び出た男たちを見つける事は容易に違いない。だから焦りは覚えず、エルは、どうやらはぐれてしまったようだと冷静に思う事が出来た。