人々の賑わいや歓声が、エルの鼓膜を一気に叩き出した。第三のセキュリティー・エリアは、どこもかしこも人で溢れ返っていた。西洋風の通路や建物が広がり、舞い上がる風船や花弁や紙吹雪、仮装した様々なドレスや衣装の色鮮やかさが世界を染め上げている。

 通行人の中には、仮装の姫や騎士、ピエロ、魔法使い、王など、多くの仮装人が入り混じっていた。どうやら、ファンタジーをコンセプトとした遊園地のようだ、とエルは理解した。

 観覧車や魔法の城、お菓子の家や氷の館、にジェットコースター、世界感を演出する色鮮やかな小さな建物が坂の上まで続いている。仮装人やマスコットが、入園者と同じぐらいの頻度で大勢出歩いており、子共や大人達が時折足を止めては、声を掛けたり写真を撮ったりしていた。

 立ち止まる四人の頭上には、『幸せランドへようこそ!』と書かれた横断幕があった。幸せはここにあったよ、帰らなくてもきっと楽しい、といったフレーズの曲がどこからか流れている。

 空は澄んだ青で、温度のない日差しが遊園地全土に降り注いでいた。

 エルは、人の多さにたじろいだ。人嫌いそうなログが、嫌悪感を露わに通りの人々を睨んでいる。立ち尽くす四人の姿は目立っていたが、気にとめる通行人は一人としていなかった。

 仮想空間とは、所詮ただのシミュレーション・システムなのだ。設定されていない行動を起こすエキストラは、ここにはいないのだろう。

「遊園地かよ」

 辺りを窺ったログが、改めてそう吐き捨てた。