仮想空間のシミュレーション・システムには、強制的な目覚めを発動させ、意識を身体に戻す保護プログラムがなされている。身体が仮想空間内で受けた衝撃に対し、脳内で起こる生命の防衛反応が利用されているらしい。

「不意打ちで戻る事になったら、大変だよねぇ」

 精神力にも強く左右されるのだと、スウェンは語った。

 怖い夢で目が覚めたり、現実世界で意識を手放してしまうのと同様で、対象の人間の脳が精神的に受ける衝撃に対しての値はそれぞれ異なる。

「外に身体があれば俺も、自分が死ぬぐらいの衝撃を受けたら戻れるって事かな」
「う~ん、君は正規のルートから入っているわけではないし、とりあえず、今は試さない方が懸命かもね。うん、君ってちょっと極端すぎて怖いよ」
「そう?」
「うん、結構な強者だと思う。素人にしては状況の飲み込みも早いし、精神的にタフなんじゃない?」

 スウェンは行方不明者達が次々に遺体となって発見されている例もあり、起こりうる結果は未知数なので、状況が分かるまで危険な賭けはしないように、とエルに説いた。彼らは、ここへ来る際に保険として二重の強制帰還システムが施されているらしい。