一番目のエリアは、ゲリラの戦場区域だったと報告が入っている。こちらのデータには、被験者の体験している映像までは送信されてこないが、空間構築データから状況は大筋分析出来た。

 空間内には突然森林が開けたり、砂漠地域の街で銃撃戦が続いていたりと、まるで戦場映画を切り取って張り付けたようだった、とスウェンは嗤って報告した。彼らにとって、これまでの本物の戦場に比べると子共騙しのゲーム程のものだったのだろうが……

 二番目のエリアは、いくつかの大通りを持った繁華街だったようだ。シークレットサービスだか、マフィアだか分からない黒服の男たちが、時と場所をかまわずに突如として現れ攻撃して来る世界。舞台は沖縄であるにも関わらず、なぜか黒服の男達は全員が西洋人だ。

 現時点で、研究員たちの中には最悪な推測が出来あがっている。支柱は独立した仮想空間として作動しているものの、基盤であるプログラムに使われている材料や、システムを稼働させている核の正体は……

 ハイソンは、忙しく数字列が流れていく別モニターへ目を向けた。

 無から有を持ちこむ事が出来るなど、世界の法則そのものに逆らっている。マルクは一体何を考え、動いているのか?

 なぜか不意に、所長と仕事の付き合いが始まった頃の事のことを思い出した。思いつきというのは、ちょっとしたきっかけから起こる不思議な現象なのではないかと、彼はハイソンに言った事がある。


――君は奇妙な体験をしたことはあるかね。まるで、そう、未知との遭遇のような。


 夢に限定するならば、ハイソンだって経験がないとはいえない。

 例えば、実家で愛犬が息を引き取った時に見た不思議な夢や、夢で見た自転車事故が現実で起こり、彼自身が痛い思いをした時の事は、今でも印象強く覚えていた。

 ハイソンはふと、「待てよ」と思考を中断した。