軍の上層部は、既に今回の件で、仮想空間に関わる全研究の完全抹消を決定していた。

 何故なら、マルクが『エリス・プログラム』の修復と立ち上げを急ピッチで進められた謎については、仮想空間から実際に、機材等を調達出来た事が要因だと推測されてもいたからだ。

 何もないゼロの状態で、現実世界に物体を精製出来るとすれば、それは脅威だ。今は機材だけだとしても、次は武器が出来る可能性もある。仮想空間内は時間の流れが早いという事もあり、とんでもない化け物や軍隊を作り上げられたら、世界の軍事バランスは傾くだろう。

 実のところ、研究が停止に追い込まれたのは、死人が出たというのも要因の一つではあるが、エリスが亡くなり、研究の存続が不可能となったのが最大の原因だった。

 仮想空間は、エリスが亡くなった直後から原因不明の崩壊を始めていたのだ。マルクは、どうやってそれを留め、再稼働にまで至れたのかも謎である。謎ばかりが残る事件だ。

 つらつらと胃に痛い事を考えていたハイソンの横で、クロシマが思い付いたように口を開いた。

「廃止された際、ほとんどの機材は処分されてしまったらしいですが、――こうして、予備の物が残っていて良かったですね」

 ハイソンは、相変わらず呑気なクロシマを睨みつけた。クロシマは、暇があるなら動けよという先輩の意図に気付くと、舌を出して軽く詫び、そそくさとラボを出ていった。