奇怪な現象だ。すべてが想定の範囲内を超えてしまっている。一体何のバグだってんだ?

 ハイソンは頭を掻きむしった。相変わらず【仮想空間エリス】の母体である『エリス・プログラム』は、こちらの問い掛けに一切反応せず勝手に稼働を続けていた。

 まさかマルクが、研究データを盗んであれを再稼働させてしまうなど、誰が想像するだろうか。原因不明の死人が何人も出たアウトな代物だ。

「廃止した時、マルクさんも納得していたんだ。なのに、どうして今更になってこんな事を……」

 その時、室内に別の部隊員が入って来た。現在ラボを任されているハイソンが顔を向けると、彼は敬礼を一つして姿勢を正した。

「新たな報告が上がっております。こちらが処理班からの報告書、こちらが、それぞれの被害者の分析と詳細データとなっております」

 室内には、規則正しい機械音と、仮想空間に潜入している三人の男達の呼吸音が続いていた。

 報告した隊員が部屋を急ぎ足で出ていく中、珈琲を持ったままのクロシマが、三人の男たちの睡眠状態を確認し、引き続き問題はないと肯いた。