スウェンは、セイジが腰かけた寝台の上に、自身も改めて腰を落ち着けた。気の許せる仲間のそばで、ようやく緊張が抜けて口から溜息がこぼれた。

「悪役ぶっていたけれど、ホテルの彼は、結局はこうするつもりだったんだねぇ。……というか、マルクを担いだ僕を、足で蹴って突き落とすなんて中々だよね」

　スウェンは、痛くないはずの背中に手を当てた。『仮想空間エリス』では生身の身体ではなかったのだが、胡散臭い笑みを浮かべたホテルマンに「そぉれ」と蹴られた瞬間の事は、まるで現実に起こった事のようにハッキリと覚えている。

　すると、セイジが不思議そうに首を捻った。

「私は自分から飛び降りたんだが……何かあったのか？」

　スウェンは、困惑気味のセイジへ目を向けて、片方の眉を上げた。

　ホテルマンは、どうやら素直に従ったセイジには、手荒な真似をしなかったらしい。スウェンはその様子を想像して、飛び降りるセイジの背後で「もう少し疑う事を覚えたらどうですか」と呆れたような表情を浮かべる、胡散臭い燕尾服姿の彼を思い浮かべた。