そうつまらない事を考えかけて、スウェンは頭を振った。今は、軍の嫌な部分に目を向けている場合じゃない。これからがスウェンの勝負どころなのだ。どれだけ先を見越した交渉が出来るかは、彼の頭脳と冷静さにかかっている。

 目覚めたばかりの身体は、疲弊しきっているようだった。身体を眠らせる為の薬が、身体から完全に抜けきっていない為だろう。スウェンは、ハイソン達の仕事ぶりを眺めつつ、少し温くなってしまった珈琲を口にした。

 『エリス・プログラム』は内側からの抹消が確認されていたが、本プログラム外に残されているシステムやデータ情報などを、ハイソン達が手分けして急ぎ完全抹消を進めていた。軍の上層部から、専門チームが寄越されてしまう前に、全てを終わらせる必要があるらしい。ショーン・ウエスターからも、そう指示が来ているという。

 スウェンとしても、今後の展開を有利に運ぶためには、今事件を引き起こした現物と、記録データが残っていては都合が悪いとも思えた。恐らく、ショーン・ウエスターも考えがあって証拠隠滅を指示したに違いない。

 とすると、彼は僕と同じ事を考えているのかもしれないな。

 軍の闇を知り、深く入り込んで立ち場もある人間だからこそ、打とうと思えば対策は取れる。今行われている緊急会議も、大佐とショーン・ウエスターは明確な説明や状況報告は開示していない可能性も考えられた。

「まぁ、いつもの手だよねぇ」

 空になった紙カップを持ち上げ、スウェンは「よいしょ」と立ち上がった。機材が無理やり詰め込まれたラボ内は手狭になっており、そこにあったゴミ箱には、大量の紙カップが捨てられていた。

 その時、セイジが目を覚ました。ひどくだるそうに身体を起こしながら、彼は「廊下が騒がしいな……」とぼやいた。気付いた女性研究員リジーが、彼の身体に巻き付けている機材を外し、暖かい珈琲を差し出した。