アリスと共にいる可能性の高いマルクについては、暴走した『エリス・プログラム』の影響を受けて操られていたと見受けられる。見付け次第、アリスと同様に保護するように。手荒い扱いは許さない事を肝に命じておけと、スウェンは半ば脅しておいた。

 エルが助けたいと言ったのだ。そして、野生の勘を持っているログも、彼を助けた。スウェンとしても、正気でなかったマルクを実際見ていたので、訳の分からない世界での出来事を思うと、その全てをマルクのせいにするのは間違いだと考えていた。

 とはいえ、まだ口にするのは早い。

 スウェンは、目覚めたラボのベッドに腰かけたまま、まだ力の戻らない身体を見降ろしてそう判断した。今後を有利に進めるためには、一人で突っ走らない方が懸命だ。

 今回の一件について、スウェンは先に大佐と話し合うつもりでいた。もう一人の役者が揃っているとするならば、今回の研究責任者であるショーン・ウエスターも引き込んで、まずは三人で早急に今後の方針を定めたい。上の連中を納得させる材料を集め、うまく交渉し動き回れるだろう。

 現在の状況について正確に把握すべく、、スウェンは、出入りする軍人達を「時間は取らせないから」と呼び付けて話を聞いた。

 これまで行方不明になっていた民間人の死体が、あちらこちらから出始めたものだから、軍も後処理に追われているらしい。上では緊急会議が開かれており、こちらに向かっているショーン・ウエスターは、テレビ電話で彼らと話し合いを進めているとの事だ。

 軍の研究が原因で死亡した事については、外部に公開される事はないだろう。殺人事件、不慮の死、事故死など、続けて発見されるいくつかの死体は、別々の事件として上げられるに違いない。