研究所で、『エリス・プログラム』の制御機能の大半の奪還に成功すると、眠りに落ちていた研究員たちが次々に目を覚まし、後の騒動に駆り出された。

 それからしばらくもしないうちに、『エリス・プログラム』の完全崩壊が確認され、スウェン達が任務を遂行させた事が判明した。人工知能の崩壊で脱出口の安定が危ぶまれたが、『ナイトメア・プログラム』の非常用脱出口のシステムが自動稼働し、潜入していた部隊員達の意識が戻り始めた。


 『仮想空間エリス』に潜入していた部隊員の中で、先に研究室の寝台で目を覚ましたのは、リーダーであるスウェンだった。


 スウェンは目覚めてすぐ、仮想空間からセイジの意識も続いて離れた事は確認されているが、精神疲労の為に身体が無意識に目覚めを遅らせているらしい、と報告を受けた。

 対応に追われるハイソンに代わり、クロシマが、今の状況についてスウェンに説明した。

 スウェンが目覚める少し前、『ナイトメア・プログラム』から最後の交信がされたらしい。仮想空間へ引きこまれた人間は、入った地点へ戻るとナイトメアは告げ、二つの地点に人間を向かわせるよう指示したのだという。

 最後の人間が戻り次第、当プログラムは完全に抹消される。今後同じ過ちが起こる事のないよう、端末のシステムやデータファイルは全て破壊し、機器は処分するように。さよなら、諸君。――ナイトメアは、簡潔な文章で研究員達に語りかけ、ブラックアウトしたとの事だった。

 何とも、ホテルの彼らしい言い方だ。

 スウェンは「してやられた」という苦々しさでそう思いながら、愚痴る時間も惜しく、早急に今後について算段し、出入りする軍人の一人を掴まえて指示を出した。