『あらあら、どうしたの』

 クロエは、エリスという名前を背負った妖精の手を、優しく舐めた。

『可愛い子、どうか泣きやんで。私が、ずっとそばにいてあげるから、何も怖い事なんてないのよ』

 昔、あの子にもそう言って声を掛けたのだと、クロエは、エルとの出会いを思い起こした。

 エリスが、小さなクロエへと目を向けた。一人と一匹は潤んだ瞳で見つめ合い、――クロエが小さく肯いた。

「……わたし、あの子まで失わなくてもいいの?」
『ええ、大丈夫よ。あの子の生きている明日を望んでくれて、ありがとう。ほら、こっちへいらっしゃい。少し眠れば、きっと落ち着くわ』

 ありがとう、とエリスが泣き声で呟いて、震える手でクロエを抱きしめた。

 クロエを抱きしめたエリスの身体が、激しい光を発した。ホテルマンが、エリスの頭に手を触れると、激しい光りは塔一体に広がり、ホテルマン、ロレンツォ、ポタロウの姿を呑み込んだ。

 崩壊する世界の巨大なうねりの中で、塔から輝く光が大きくなり、中心から突如七色の光が放たれて旋回を始めた。七色の光は、まるで打ち鳴らされる鐘のような音を夢世界に響かせながら、崩れ落ちる瓦礫を巻き上げる。