ハイソンは落ち着きなく鼻頭の脂を拭い、人差し指で眼鏡を押し上げた。まさか以前の研究チームが再び集まり、一時的とはいえ、そこのリーダーを任された荷は重かった。胃通が絶えず起こり、彼の腹部をキリキリと締めつけてくる。

「所長は、いつ戻って来られるんだ?」
「本日の夕刻には沖縄に入られるそうですよ。こちらからデータは常に送っていて、解析はお願いしていますが、こんな現象は見た事がないそうです」

 無から有が派生し、有が存在しないはずの向こう側へと飲み込まれる――

 マルクの隠し部屋にあった機器は、恐らく仮想空間から持ちこまれたらしいと推測されていた。組み立てられた跡すら見られない完璧なパソコンと機器の模造品達は、恐ろしい事に、きちんと機械として作動する事が確認されていた。

 今回は隊員達の目の前で、生きた人間が身体ごと仮想空間へ消えてしまっているとあり、ハイソンの悩みは尽きない。