「――私も、貴女が生きる未来を望んでしまったのです。それに、これは彼女の願いでもあります」

 そう告げて、ホテルマンが人間のような私情を滲ませて、弱々しく微笑んだ。彼の腕の中にいるクロエの瞳も、しっとりと濡れていた。

『ごめんなさい。でも、どうか生きていて、愛しい子。私も、貴女が愛おしくて仕方がないのよ』

 頭の中に直接響くような、深く優しい女性の声――

 エルは、その声がクロエのものである事に気付いて、ログの腕の中から身を乗り出し、「でもッ」と言葉を投げかけた。すると、途端にクロエが、小さな首を左右に振った。

『ずっと一緒に過ごしてくれてありがとう。私、とても幸せだったわ。貴女が無事に成長していく姿が、いつも私を幸福な気持ちにさせてくれたのよ』
「クロエ……」

 エルは、堪らず嗚咽をこぼした。自分を押さえつけるログの腕が憎くて仕方ないのに、どうして強く抱きしめてくる暖かい腕を、優しいとも感じてしまうのだろう。

「嫌だ、俺、クロエまでいなくなったら一人きりだ。ポタロウも、オジサンも、クロエもいなくなったら、俺には何もないんだよ」
「小鳥、お前の未来はこれからだ」

 ロレンツォが、力強く言った。