自由のきかない空中に放り出されて、エルは「うぎゃぁあああ!」と叫んだ。空中で慌てて身体を捻り、遠ざかっていく塔を振り返ったが、下から吹き上げる風に巻き込まれて引き離される勢いが増した。

「オジサン、待ってよ! どうしてクロエがそこにいるの!? なんで俺だけッ――」
「すまんなぁ、エル。俺は一人の娘として、お前の事が可愛くて仕方がないんだ」

 言われた言葉に、エルは返せる台詞を見失った。


「愛しているぜ。どうか生きていてくれ、小鳥」


 ロレンツォが、泣きそうな顔に強がった笑顔を浮かべた。その間にも、エルの身体は、エリスのいる場所からどんどん離されていく。

 地上から勢い良く投げ飛ばされたエルを、空中でログが受けとめた。気付いたエルが「離せ! 戻る!」と暴れても、ログは、背後から彼女をしっかりと抱き締めて離さなかった。

 暴風と共に上空へと引き上げられていたログの身体は、エルを受け止めた事で、更に強い引力に引っ張られるよう加速した。

 エルは、眼下の塔に残されたエリス達を見降ろした。涙が溢れて視界が滲んだ。慌てて涙を拭ったが、こちらを見送る一同の顔を見て、誰もがこうなる事を知って望んでいたのだと気付き、涙は止まらなくなった。

 どうしてここに、オジサンやポタロウがいるのかは知らない。それでも、わざわざ天国から彼らが戻って来たのだとすると、どう足掻いても、エルに彼らの筋書きは変えられないのだと分かった。

 分かっているのだ。オジサン達が、どんな想いでこんな行動に出たのか。けれどすぐに納得出来る筈もなく、クロエがここで自分の代わりに現実世界から消えてしまう事実に耐えられるはずもなく、エルは、後ろからログに抱えられたまま泣いた。

「……俺は、嫌だよ。クロエが死んでしまうなんて、嫌だ」
「どうか泣かないで下さい、我が主人、小鳥」

 ホテルマンが、クロエを抱いたままそう言った。