歳老いているとは思えない逞しい身体や、彼の顎で伸び始めている白い無精髭が額にあたる痛さも、涙が込み上げるほど懐かしくて、エルは、押し付けられたオジサンのシャツを握りしめて堪え切れず泣き出した。

「ッなんで、オジサンがいるんだよ」
「なんだ。お前、俺に会いたくなかったのか? ほれ、ポタロウも一緒だぞ?」
「そういう事じゃなくて――」

 その間にも、足元では雑種犬のポタロウが、再会を喜ぶように走り回っていた。クロエを受け止めたホテルマンが、「先程振りですねぇ、夜の貴婦人」と悠長に挨拶する。エルは、訳が分からなくなった。

 オジサン――ロレンツォ・D・ナカムラは、数秒ほど可愛い娘を抱きしめていたが、無造作にエルを担ぎ上げた。彼は、戸惑う彼女に質問の暇も与えず、楽しげな顔でこう宣言した。

「ここは俺達に任せて、お前は帰れ。よっしゃ、うまく放り投げられてくれよ~」
「放り投げ……!? ちょ、待ッ!」

 言い終わらないうちに、エルは、ロレンツォの太い両手で思い切り、力任せに頭上へと放り投げられていた。