「……らしくない事を考えてしまいました。もう、タイムリミットなのでしょう」

 その時、不意にホテルマンの顔付きが変わった。彼は、何かを感じ取ったかのように自身の足元へ視線を向けると――ホテルマンの唇に「間に合いましたか」と薄い笑みが浮かんだ。


 唐突に、階下へと繋がる螺旋階段の入口から、強烈な風が吹き出した。野太い悲鳴と共に、大きな何かが放出される。
 

 エルは、強烈な風を背中から受けてよろめいた。ふと爆風の中に、懐かしい犬の鳴き声を聞いて振り返った時、空中に放り出されているログと目が合った。何故、彼がここにいるのだろう。クロエを連れて、無事に『外』に出られている頃のはずじゃ……?

 どうして、とエルは唇で形を作った。 

 しかし、エルの思考は長く続かなかった。見慣れた楽な格好をした白髪の大きな男が、彼女の腕を掴んだのだ。

「よッ、見ないうちに、ちょっと大きくなったか? 死に急ぐのは、まだ早いぜ、エル」

 そう言われたと思った途端に、エルは男に抱きしめられていた。