エリスは目を見開くと、途端にくしゃりと顔を歪めた。彼女は「ごめんなさい」と呟いたかと思うと、張り裂けんばかりの泣き声を辺りに轟かせた。エリスは、金色の瞳で頭上を仰いで歎いた。嗚咽をもらし、大粒の涙をこぼしながら、胸が締め付けられるような悲痛な声で叫ぶ。

　エリスの感情の波が、悲鳴と共に空気を震わせた。痛いほどの悲しみと、激しい後悔が、聞く者の頭に一気に流れ込んでくるような悲鳴だった。

　エルは、全身を打ちつける暴風と、エリスから発せられる力の流れに、意識を飛ばしてしまわぬよう奥歯を噛みしめた。知らない過去の光景が流れ込んでくると同時に、堪え切れない悪寒と吐き気に襲われ、『夢人』であるエリスの記憶や想いが、エルの脳裏を貫いた。


――聞いて、エリス。外からやってきた人間の女の子が、私に名前を聞いてくれたのよ。

――私がエリスよって答えたら、あの子は「あたしは小鳥よ」って答えてくれた。可愛らしい名前でしょう？

――小鳥、私、あなたと過ごせる短い時間が、本当に大好きだったの。

――助けてなんて、嘘よ。

――ああ、どうして。私は、あなたの未来まで奪いたくないのよ、初めて私と友達になってくれた、小鳥……


　その時、ホテルマンが、エルの肩を支えた。

「私の『力』が発動されれば、狂化に入った『夢人』だろうと『理』の中の深い眠りに落ちます。眠ってい間に『理』が、彼女の存在を正しい方向へと修正してくれるでしょう。夢人は死にませんから、役目を終えれば、この世界の理の足元で次の時を待ちながら眠りにつくのです。貴女は、エリスと共に長い眠りにつき……時が来れば、あなたの魂は還るべつ場所へと引き上げられる」

　エルは、ホテルマンが触れた場所から、身体が楽になっていくのを感じた。同時に、彼が告げた言葉の意味も察した。