「さぁ、どうでしょうかねぇ。私には理解の出来ない話です」
『でも、貴方は私の味方でいてくれるのね。それは、どうして？』
「こうして触れあえぬまま、全てが終わってしまうというのも消化不良だ。――私が、誰かの未来を望むなんて、本当に不可思議ですが」
『あの子と言葉を交わす事も出来ないと話していた時の貴方、とても寂しそうだったわ。きっと、貴方にも心が宿ったのね』

「ふふ、よして下さいよ、『私』に心はありませんから。……でも、そうですね。言葉を交わし、触れあってしまったのなら別れが惜しくなる、という貴方の世界の言葉は的を射ているのでしょう。そう望んでしまった時点で、きっと私は、もう後戻り出来ないのでしょう」

　望める未来があるのなら、全てを賭けよう。

　未来は、命ある者の選択で変える事が出来る。大事なのはタイミングで、干渉は多くも少なくともいけない。

『私はね、貴方が恐い存在だとは思えないわ、ナイトメア。貴方は、誰かを想いやれる、素敵な人よ』
「いいえ、夜の貴婦人。私は死と終わりの象徴であり、闇そのものなのです」
『それでも壊さないように、逆らう事なくじっと耐える事を知っている貴方は、やはり優しい人なのだと、私はそう思うのよ』

　命ある者や、意思のある者が寄りつく事さえない、異界の深い闇に一人存在するナイトメア。彼は『理』の管轄外で生まれた予想外の異分子であり、そこにある闇達と居続けるのが、彼が『理』に持たされルールの一つ。

　彼という存在は感情を知り、その先の未来を望んではいけないのだろうか。

　彼女は、常々不思議に思っていた。たった一つの自由すら、彼自身は否定してしまうのだ。初めて彼を受け入れた最高の『器』であるエルと出会い、戸惑いと同時に感情を少し得てしまった今も、望みを口にしない男のままだった。