自分に死期が近づいている事は、当然のように知っていた。

 それでも生きながらえているのは、きっと世話になっている男の寿命が、病魔の為に早く尽きようとしているせいだろう。見届ける者がそばにいない中で、彼よりも先に死んではならないとは感じていた。

 彼女は、とても幸福な猫だった。

 三回の出産と育児を終え、子共達の旅立ちを見送り、穏やかな日々にも満足していた。ポタロウが、一向に人語を理解出来ない事をはじめは心配していたが、どうやら、種族の違う生物同士が、人語を理解する方が稀であるようだと遅れて悟った。

 自分の身に不思議な力が宿っている事に気付いたのも、同じ時期だ。そうか、私は化けて出る事も望めば容易であるのかと腑に落ちた。けれど、先立っていく子共たちを見届け、愛する者の最期を胸に抱いてまで、長い時を生きたいとは望めなかった。

 生きながらにして、死の淵に抱かれる。

 彼女――クロエは高齢だった。眠り落ちる間の暗黒の夢は、死後の世界と思えるほど冷たい静寂に満ちていた。けれど望む物は何もなかった。あの時、彼が人間の子共を引き取るまでは。

 一人と二匹の穏やかな生活は、彼女を少し寂しくもさせていた。

 すっかり子育てを終え、母親としてなすべき大きな仕事がなくなってしまった今、クロエは、自分が急速に老いていくようにも感じていた。

 そんな時、世話になっている人間の男が、一人の幼子を引き取ったのだ。小さく、弱く、泣き虫な子共だった。彼女が姿を見せると、子共は少しだけ泣き声を弱めてこちらを見た。

 広い家の中で、子供は所在が掴めない様子だった。不安だったのだろう。子共は呼んでも来る事がない、自分の本当の両親を求めて泣いた。彼女が世話になっている人間の男は、子共の扱いには不慣れなようで、とうとう彼女に助けを求めた。