ログは塔へ向かおうと努力したが、重力が頭上にあるように地上から引き離されて行く。

「後は任せろ」

 乱暴に肩を叩かれた直後、ログの脇を男が通り抜けた。続いて、呑気な顔をした雑種犬が、ログの頭を踏み台に人の集まる塔の上へと飛び降りた。


 塔の頂上にいた燕尾服姿の男がこちらを振り返り、その脇にいたロングコートの少女も、騒ぎに気付いて顔を向けた。

 目が合った瞬間、彼女の鶯色の瞳が見開かれた。どうして、とその唇を僅かに動かせている。


 ログが口を開くよりも早く、男がエルの元へ降り立ち、半ば強引に彼女の腕を掴んだ。彼は驚きを隠せないエルの顔をじっくり見つめた後、悪戯好きな薄い青の瞳を輝かせて、品もなく歯を見せて笑った。

「よッ。見ないうちに、ちょっと大きくなったか?」

 目を見開くエルの腕を、彼は更に引き寄せた。

「死に急ぐのは、まだ早いぜ、エル」

 男はそう言って、大きな腕でエルを抱き締めた。