放り出された頂上地点の宙で、一瞬ばかり、ログの身体は宙を漂った。

 それは、ほんの数秒の浮遊だったが、そこに広がる光景に目を奪われて、ログは時の流れを忘れた。

 暗黒にほとんど飲み込まれた世界に、唯一残った半分の高さまで削られた塔があった。崩壊する街の瓦礫が、次々に頭上へと巻き上げられていく光景が眼前に広がっている。

 崩れてゆく街から顔を覗かせていたのは、白く輝く美しい真珠の外壁で、それは他のコンクリートや機械仕掛けの鉄とは違い、精巧な飾り細工の花弁のように映えて見えた。それらは白い輝きを発しながら剥がれ落ち、下への闇へと吸い込まれてゆく。

 崩れかけた塔の頂上には、眩い大きな花弁の揺りかごに座り込む、一人の少女の姿があった。

 暗黒に包まれる世界で、神々しく光り輝く、妖精のように美しい少女だった。吹き荒れる風に荒々しく舞い上がるブロンドの髪、真珠のように細かく発光する幼い肢体、猫を思わせるしっとりと濡れた黄金色の大きな瞳は宝石のようで、五歳にも満たない身体をした彼女の胸部には、菱形をした七色に輝くダイヤが埋まっていた。

 誰の顔にも似ていない美しい妖精は、声をからして泣き続けていた。自分の身体が光り輝いているせいなのだろうか。彼女は、迫る黒衣の男の存在にも気付けていないようだった。

 ホテルマンだ、とログは気付いた。そのすぐそばに、同じ漆黒色のコートの裾をなびかせた、華奢なエルの後ろ姿もある。

 妖精は光りの中で、世界の終わりを嘆き続けている。

 なんて痛ましい泣き声なのだろうと感じた時、ログは、浮遊状態に変化が訪れたのを感じた。見えない糸に絡めたられるような違和感を覚えた瞬間、身体が上空へと引き寄せられ始める。