「完全に切り離されるんだよ。『外』の世界にあるべき物と、こっち側にあるべきモノが仕分けられる。この風は『外』の世界に帰すべき者を上へと引きずり上げる――つまり、お前を引っ張ってる訳さ」

 男は野太い声で言うと、ログの襟首を荒々しく掴んだ。

 ログは、嫌な予感がして「おい、おっさん」と首を回して彼を見た。すかさず男が「てめぇも『おっさん』だろうがッ」と、白髪の老いた男には見えない顔で叱り付けた。

「いいか、お前さんは『外』に帰されちまう人間だ。この流れには絶対に逆らえない。上がどんな状況になっていようが、お前は、あの子の手を掴む事だけを考えろ。俺が、あいつを引き剥がして、放り投げてやる」
「ちょっと待て、それが作戦か?」

 説明が大雑把過ぎる。放り投げるってなんだ。

 しかし、ログが疑問をぶつける余地はなかった。途端に世界が大きな揺れ、巨大な硝子が次々に砕けるような爆音が全身を打ったのだ。

 強い力が、男に襟首を掴まれたままのログの身体を、ふわりと浮かび上がらせた。途端に下から吹き上げた巨大な風の鞭が、彼の身体を強かに打ち、一気に上へと押し上げた。

 まるで遥か上空から海に突き落とされたように、全身が軋んだ。男がログの襟を掴えたまま、一緒に爆風に煽られて宙を飛ぶ。

 ログは不思議と、自分の身体に強引にぶら下がる男の体重は感じなかった。殴るような風に目をほとんど開けていられず、呼吸さえもままならない。空気の読めない雑種犬が、笑顔を浮かべたままログの足の裾に噛みついて、主人と共に頂上を目指した。けれどログには、そんな馬鹿犬を叱咤する余裕はなかった。

 風に押し上げられ、二人と二匹は、光り溢れる世界に押し出された。