『いいのよ。これは私がナイトメアと話して、望んだ事なの。私はもう長くはもたないし、この身に宿った力を使ってまで長生きをしようとは思わないもの。私は、あの子が生きる明日が愛おしいの』
ログは、肩越しにクロエを振り返り――ああ、美しい瞳をした猫だ――そう思った。この黒猫は、生きる事の大切さと、寿命を全うする誇らしさを知っているのだ。立派な覚悟を持った彼女に対して、一時の同情だけで引きとめるには、失礼だろうとさえ思えた。
男が、クロエを優しく抱き寄せた。クロエは男の、白い無精髭のはえた顎に濡れた鼻先をすり寄せた。
ログに見せた時とは違う穏やかな表情で、男が老猫を見つめた。
「すまないなぁ、クロエ。本当だったら、あと数日はエルとの時間を過ごせただろうに……」
『いいえ、私、とても幸福だったのよ。これ以上の幸せを望めないぐらい、あの子が愛しいの』
「――ああ、俺もポタロウも、結局のところ、あいつが可愛くて仕方がないんだ。一緒にはいられなくても、生きていて欲しいと願っちまうぐらいに」
雑種犬が、主人と小さな友達の様子を確認するように、気楽そうな呑気な眼差しを向けた。
肩越しに見つめるログの視線に気が付いて、男が顔を上げた。男は、すぐ取り繕うように笑ったが、その表情は今にも泣き出しそうだった。
「血は繋がっていなくとも、俺にとって、あいつは大事な娘だった」
「ああ、知ってる」
ログが答えると、男は「生意気なガキだなぁ」とぎこちなく笑った。
ログは、肩越しにクロエを振り返り――ああ、美しい瞳をした猫だ――そう思った。この黒猫は、生きる事の大切さと、寿命を全うする誇らしさを知っているのだ。立派な覚悟を持った彼女に対して、一時の同情だけで引きとめるには、失礼だろうとさえ思えた。
男が、クロエを優しく抱き寄せた。クロエは男の、白い無精髭のはえた顎に濡れた鼻先をすり寄せた。
ログに見せた時とは違う穏やかな表情で、男が老猫を見つめた。
「すまないなぁ、クロエ。本当だったら、あと数日はエルとの時間を過ごせただろうに……」
『いいえ、私、とても幸福だったのよ。これ以上の幸せを望めないぐらい、あの子が愛しいの』
「――ああ、俺もポタロウも、結局のところ、あいつが可愛くて仕方がないんだ。一緒にはいられなくても、生きていて欲しいと願っちまうぐらいに」
雑種犬が、主人と小さな友達の様子を確認するように、気楽そうな呑気な眼差しを向けた。
肩越しに見つめるログの視線に気が付いて、男が顔を上げた。男は、すぐ取り繕うように笑ったが、その表情は今にも泣き出しそうだった。
「血は繋がっていなくとも、俺にとって、あいつは大事な娘だった」
「ああ、知ってる」
ログが答えると、男は「生意気なガキだなぁ」とぎこちなく笑った。