最後にオジサンと訓練したのは、いつだっただろう。

 彼は、いつでもエルにこう説いた。


――人は簡単に死んでしまう。それを忘れてはいけない。だからすぐに殺してしまえる道具は使わないで、その身でまずは加減を覚える事から始めさない。


 一階に降りてみると、改めてホテルのエントランスの激しい損傷が目についた。歩くたびにガラスの破片が靴の底に触れて、耳触りな音を立てた。

 静まり返ったホテルを出ると、誰もいない通りが伽藍と広がっていた。

「支柱が活動を停止したせいだろうね。セキュリティー・エリアの心臓みたいな物だから、壊すと空間内の稼働が全て停止してしまうみたいなんだ」

 スウェンが、エルにそう説明するそばから、ログが小さな舌打ちを一つした。

「相変わらず嫌な場所だぜ」

 ログが言い、三人が歩き出した。

 エルは三人の後を追いながら、頭上を仰ぎ見た。薄い灰色の空に、誰かが手を離したらしい風船が風に流されたままの形で空中にピタリと止まっていた。後方ではばたく鳩の群れも、歩道に立っている店の旗も、動く事を忘れて静止してしまっていた。

 まるで、誰が見た風景を――記憶を、そのまま切り取ったみたいだ。

 そんな印象を覚え、エルは足早にホテルを離れた。